ワーケーションで使える!地域の関係人口になれる『出会い』術【日本ワーケーション協会・入江氏が語る】

ワーケーションで使える!地域の関係人口になれる『出会い』術【日本ワーケーション協会・入江氏が語る】

勤務先の企業に「テレワーク制度」「ワーケーション制度」が存在していても、実際にはその制度をうまく使いこなせていないビジネスパーソンの方は多いのでは?特にワーケーションは、地域の方との出会いが無い限りは「観光地の施設でテレワークをしただけ」で終わりがちでもあります。

そこで重要なのが「ワーケーション先の地域と多様な関わり方をする”関係人口”になる」ということ。地域の方との出会いを作り、信頼関係を築き、本業にも生かせるような関係値が出来上がると理想的です。では単に一回、ワーケーションをするのではなく「関係人口になる」にはどうすればいいのでしょうか。

今回は日本ワーケーション協会の代表理事である入江氏に、「地域と関係人口になるための出会い術」について聞きました。
たとえば、都市圏から地域へワーケーションする際に陥りがちな失敗や、地域の人々とのコミュニケーションで気をつけるべきことなど、具体的な事例を交えながら、実践的なアドバイスを語っていただきました。ぜひ、最後までお読みください!

入江真太郎(いりえ・しんたろう)

一般社団法人日本ワーケーション協会代表理事。長崎生まれ、育ちは福島、秋田、茨城、徳島、兵庫と各地を転々、京都・同志社大学社会学部卒業。京都市が事業拠点の大阪府在住。(株)阪急交通社等で旅行業他様々な業種を経験。その後、ベンチャー企業から独立起業を経て、観光事業やその他海外進出支援事業等を展開。北海道から沖縄まで、各地と関わりを強化。地域共創、豊かなライフスタイルの実現が可能なワーケーションを事業として高い関心を持ち、協会設立に至る。子ども環境情報誌エコチル地域拡大戦略アドバイザー。

企業と個人にとってそもそも「ワーケーション」は意味がある?

– テレワークやその延長である『ワーケーション制度』は「制度自体は存在しているけれど、その制度をうまく使えない」状態の企業が多いと思います。まず『ワーケーション』は企業及びそこで働く個人にとって、改めてどういう意味がある制度なのでしょう?

入江:たしかにワーケーションは「ルールでは可能だけど、いまは実施できていない」という企業や働き手の方が少なくない制度です。一方でワーケーション制度を取り入れて、既に実施している大手IT企業の採用はめちゃめちゃ順調だという話も聞きます。

つまり
・働き手にとっての「魅力的な働き方」としてのワーケーション
・採用サイドにとっての「採用戦略」としてのワーケーション
は大なり小なり、概念として定着しつつあると思います。

だけど、現場で働いているマネージャーなど、オフィス勤務に慣れている方にとっての「ワーケーション」は理解が進んでいないのかもしれませんね。

とはいえ、ワーケーションはじりじりと広がりを見せている働き方であることも事実です。日本ワーケーション協会に登録される会社員の方も、東京だけでなく、仙台、東海、関西圏でも増えています。フリーランスの方も含めると、たとえば島根の個人事業主の方が登録されたケースもあるんです。

・地域とのつながり
・ワーケーションをする人同士のつながり

この両方を求める企業も、個人も、全国にまだまだいっぱいいる感覚が強くあります。働き手の価値観も多様化する中で、企業にとっても個人にとっても「地域との関わりを通じて人生を豊かにし、それが働く満足度につながり、結果的に会社に還元される流れ」は間違いなく重要な要素だと思うんです。

【初級】ワーケーションで出会いを生むための、地域の「選び方」

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日本ワーケーション協会・入江さんが事業拠点である京都市内で、小さなワーケーションをする様子(入江さん提供)

– 理念はすごくよく分かります。ですが、本当にワーケーションをするとなると「地域には行くけれどコワーキングスペースで孤独にパソコンをカタカタして終わる」という人の方が多いと思うんです。だから「何のためにワーケーションをするのか」という疑問が生じがちなのかなと。

入江:なるほど、確かにそうかもしれません。「地域との関わりを通じて人生を豊かにする」「結果的に会社にも還元される」と言っても、その関わりの段階で躓く人が多い面はありそうです。

– そもそもビジネスパーソンはワーケーションを通じ、どのように地域との関わりを作ればよいのでしょう?

入江:まずは、人によって地域との関わり方の価値観が異なることを理解するのは重要です。たとえばその地域のラーメンを単に食べるだけで満足する人もいるものですし、別にそれは悪いことではないです。
一方で、インスタで「全国のパンケーキ食べ歩き」について発信し、ワーケーションに行くごとにパンケーキを食べ、写真を投稿する人もいます。つまり、地域と関わる理由を自分で見つけることが大切ですし、ワーケーション初心者の方の場合、「地域と関わる」感覚を身につけるには多少の時間を要するものです。

– ワーケーション先の地域の選び方を、もう少し具体的に教えてください。

入江:はじめのうちは遠方には行かない方が良いです。いつもと違う駅で降りて、その駅周辺のコワーキングスペースで仕事をするといった小さなワーケーションから始めるほうが無難です。東京都心へ電車で出勤している方であれば、小田急線で小田原や藤沢へ向かうのも良いでしょう。大阪都心へ電車で勤務している方なら、京都や神戸、奈良方面。愛知県にお住まいの方なら、勤務地と異なる方向に向かう車で30分ほどで行ける場所などもイメージしやすいと思います。日常圏内でできる範囲のワーケーションを「マイクロワーケーション」という言い方をすることもあります。

そうして初級の感覚が身についたら、次は「中級」です。

「自社の事業に深く関わるワーケーションをする」「自社の事業と関係ない地域でワーケーションをする」という選択肢が自然と浮かんできます。どちらを選ぶかはワーケーションの目的や、自分自身の経験値によっても違います。

自社の事業に深く関わる地域でのワーケーションならばビジネスチャンスが生まれやすいですし、ワーケーションの成果を会社に還元しやすいです。一方で、その分「売り込み」に見えやすく、地域から嫌われてしまうリスクもあります。自社と縁が薄い地域のワーケーションならばセレンディピティには溢れていますが、その取り組みが何らかの成果に繋がるには時間を要します。

都市圏から地方に「ワーケーションする人」がやりがちな失敗

入江:なお私はもともと転勤族で茨城や徳島、秋田など各地で暮らしてきましたし、現在は日本ワーケーション協会の代表として京都で事業をしています。各地のワーケーションに携わる中で、客観的に「都市圏」と「それ以外の地域」の価値観の違いの大きさにも触れてきました。
その上で述べると、都市にお住まいの方の場合、都市と地方の文化や価値観の違いを学ぶことはものすごく大切だと感じています。日本全国から見れば「東京」や「大阪」「名古屋」などは、むしろ変わった地域だと思います。そうした都市にお住まいの「ワーケーション初級者」の方が、いきなり飛行機で行くような遠方でワーケーションをし、失敗した事例は実は少なくないんです。

– 都市圏の方がワーケーションで現地の人と出会う際に、行いがちな失敗とはどういうものですか?

入江:地域の人と話す際は相手の土地へのリスペクトを忘れず、都市圏の常識を押し付けるのではなく、地元の視点で会話をすることが大切です。

たとえば東京から島根に行って「東京はこうだから島根は遅れている」と言うのはNGです。島根の人には島根の人のスピード感がありますし、そもそも島根の人にとっての「都会」や「遊ぶ場所」の感覚も違います。島根の人にとってもっとも身近で、大きな街は広島です。
主語を東京ではなく「島根」に合わせないと、こうした地域の感覚を理解することは難しいです。手っ取り早いのは「東京ではこうです!」と言いたくなるところをぐっとこらえて「島根ではどうですか?」と主語を全部ワーケーション先の地域に置き換え、ヒアリングにまずは徹することです。これを意識するだけでも、コミュニケーションのあり方が変わります。その感覚を理解しないままに会話をすると「東京の感覚を押し売りしている」状態になりやすいです。これは他の地域にお住まいの方でも同様で、なるべく感覚を押し付けないで「受け入れる」ことが近道です。

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島根で実施された「しまねワーケーションWEEK」の様子(公益社団法人 島根県観光連盟 提供)

– 仰っていることはわかるのですが、その感覚を理解して実行に移すのは簡単ではないことのように思います……。

入江:お気持ちはわかります。やはり「ワーケーション先の地域の方との出会い方や、出会いの数」がそもそも大切だとも思います。地域の方と出会い、交流を重ねないと感覚が磨かれない部分はあります。

出会いを探すには、まずはGoogleマップを使いこなしましょう!具体的には、その地域のコワーキングスペースを検索し、口コミを見るのがおすすめです。たとえば「集中できる環境でした!」という口コミが集まっているコワーキングスペースなら、そのコワーキングは「もくもく会」に適した場所でしょう。交流を求める方には物足りないかもしれませんね。

一方で「コミュニティマネージャーさんが親切でした!」という口コミがある場所なら、その地域の人と関わりを持ちたい方にとっては、交流のきっかけを掴みやすい場所だと思います。同様に、イベントが多いコワーキングスペースを探して出向くのもおすすめです。

【中級】ワーケーション先の地域と「関係人口」になるためのアピール術

– 地域と継続的な交流を持つのは「初級者が一回、イベントに参加する」だけでは実現できないものだと思います。その地域に入り込んで「関係人口」になるには、次のステップとして何をするべきなのでしょう?

入江:その問いは「中級」ですね(笑)。ワーケーションの感覚をつかむ初級を既にクリアしている前提でお答えします。

その地域の特徴に対して、自分が何を提供できるかを考え、具体化することが必要です。

日本ワーケーション協会の代表理事として、多くの地域のワーケーションに携わってきた経験から言えることが一つあります。それは「多くのビジネスパーソンの自己紹介やPRは、地域の方の目線からみると、同じことばかり言っているように聞こえる」ということです。

たとえば「SNS運用ができます」「プロモーションができます」といったことを謳い文句に、地域の方と接触してビジネス機会を生もうとする方は多いです。しかし、単に「SNS運用ができる」方は全国に居るものです。

つまり地域の目線に立つと、そうした自己紹介は魅力的に聞こえないのです。日常の恋愛や飲み会での出会いと通じる部分が、地域の方との出会いにもあるんです。まだ信頼をしていない相手から下心が丸見えで、魅力的ではないアピールをされたらあまり良い気持ちはしないですよね。

– なるほど……。

入江:「地域の側」に立って、これまでたくさんのビジネスパーソンの方の売り込みも見てきましたが、地域の方がサッと引いてしまうようなアピールをする方は本当に多いです。

一つだけアドバイスをするならば「SNS運用ができます」ではなく「SNS運用ができ、その経験を活かしてパンケーキの食べ歩きアカウントも運用しています」といったレベルまで、自分の強みをブラッシュアップし、経験値を積むことがまず大事です。

– ワーケーションで地域の関係人口になることは、ものすごくハードルが高いものに思えてきます。

入江:関係人口という言葉は独り歩きしすぎだと思います。在宅百貨さんが「(関係人口になるのは)ハードルが高い」と感じるのも無理はありません。

そのレベルの強みがまだ自分にないのであれば、地域と深い関係を持つ前段階で延々と自分探しを続けてもいいんです。それもまたワーケーションの在り方の一つですし、もっと気軽に考えていいんです。自分探しをするのもワーケーションの魅力ですよ。

自分の地域の価値観を押し付ける「提案」は必要ない

入江:なお、このように述べると「いや、別に自分探しはしたくない。地域課題を解決したい!」と奮い立って「地域にワーケーションする際は、その地域にどんどん自分の知識に根差したビジネス提案をすべきだ」と勘違いする方もいます。ですが、実は「地域に提案すること」も必ずしも必要ではないんです。その点は勘違いしないよう、ご注意ください。

– 「提案」が必要ではないのは、なぜですか?

入江:Aという画一的なソリューションをあちこちに提案すれば契約が取れる、という考え方そのものが地域の目線とはいまひとつマッチしないことが多いのです。 実際には地域には地域ごとの課題があり、その解決に向けたアプローチも地域ごとに違うはずです。そうしたことを理解せずに、いきなり「ソリューションを提案する」と間違いなく地域の方から警戒されます。

おそらくワーケーションをこれから始めるならば、その地域への最初の訪問は「その地域の尖った特徴をほんの少し理解するだけ」で終わるはずです。たとえば浜松市であれば「製造業の町なんだな」「製造業にはこういう課題があるんだな」ということをなんとなく知るに留まるでしょうし、それで初回のワーケーションとしては十分です。

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日本ワーケーション協会・入江さんが浜松市でワーケーションをする様子(入江さん提供)

– 「その地域が持つ特徴や課題」と「自分の持つ高いスキル」が噛み合うことで関係人口としてのつながりが生まれるということですね。その域に達するのも、やはり簡単なことではないようにも思えます。

入江:おっしゃる通りです。たとえば地域の課題で言えば、経験を積むほどに「この地域は後継者不足で悩んでいる」など要点を見抜く感覚が自分の中で研ぎ澄まされてきます。特徴や課題を見抜く能力そのものが伸びてくるんです。
そのためには、様々な地域としっかり交流を重ねることも大切ですし、焦って「自分の地域の価値観に基づいた押し売り」ばかりを地域の方にすると信頼関係は築けません。

そしてお伝えしたいのは、ワーケーションをするのは何も「若者」でなくとも構わないということです。押し売りをすることがない高度なコミュニケーションスキルを持ち、課題を見抜く目があり、なおかつブラッシュアップされた明確な強みを持つ「若者」は必ずしも多くないかもしれません。ワーケーションをするのは30代や40代、50代の方でも構わないんです。
もちろん20代の方が先にお伝えしたようなスキルを持っていて、ワーケーションをするならばそれは貴重なことですし、将来的に日本の地域課題の解決に貢献するような人材へと成長し得る存在だとも思います。そうした方が今後、出てくることにも強く期待しています。

ワーケーション先での交流の様子

日本ワーケーション協会・入江さんがワーケーション先の地域で様々な地域・年代の方と交流を深める様子(入江さん提供)

「ワーケーション」上級者の働き方とは?

–「地域課題」と「自分の持つ高いスキル」がマッチするのが中級者だとすると、ワーケーションの上級者の働き方とはどのようなものでしょう?

入江:課題とスキルが「マッチする」だけでなく、マッチしたうえで課題を解決に導けるのが「上級者」だと思います。ワーケーションを通じて地域の課題に触れ、解決策の「押しつけ」ではなく「ヒアリングからの提案、実行」ができる人材が増えることが理想ですし、そうした成果が、そのビジネスパーソンの方の勤務先にも還元されればより理想的ですね。

年齢に関係なく、自己分析ができ、地域と深く関われる人が増えれば、社会全体の働き方がさらに多様化するでしょう。30代から50代の経験豊富な方がワーケーションを行うことも有意義ですし、20代の方が経験を積み、将来的に新しい価値観を作っていくことにも期待しています。

– 今日はありがとうございました!
   

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