従業員のやる気を「エンパワーメント」によって引き出すには?組織・人の能力の高め方

従業員のやる気は、組織の成果や人材の育成に大きく影響します。そのやる気を引き出すために重要なのが、「エンパワーメント」という考え方です。この記事では、その重要性と、実際に「エンパワーメント」の活かし方をご紹介します。

アフターコロナで「出社回帰」や「ハイブリッドワーク」に移行する企業が増える中、従業員のマネジメントは改めて大きな課題となりつつあります。
「メンバーの仕事をしている姿を直接目にすることができれば、生産性が上がる」とは限らず、移動や対面でのコミュニケーションに時間を取られる分、仕事の効率が下がるケースもあるためです。

つまり出社、テレワークを問わず従業員のやる気を「エンパワーメント」によって引き出すことが重要であり、社員が自律的に動くことができるのであれば働き方は柔軟性をキープできるのです。
今回は従業員のやる気を引き出す「エンパワーメント」とは何か、解説します。
 
 

従業員のやる気を引き出す「エンパワーメント」の重要性

 
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エンパワーメントとは組織の一人一人の力を引き出し、社員らの自律性や主体性を高めることを意味します。元々はエンパワーメントとは自由公民権運動などで用いられる言葉でしたが、昨今は組織マネジメントの分野でよく使われています。

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エンパワーメントはいわば「マイクロマネジメント」の真逆です。マイクロマネジメントは上長が不確実性の高いKPIや売上目標を、具体的な指示に置き換えて事細かに指示を行うものです。一方でエンパワーメントでは、権限を部下に委譲して不確実性の高いKPIや目標を「組織的」かつ「自律的」に処理します。チーム内のコミュニケーションが進んでおり、なおかつ一人一人の能力が高いことが前提にはなりやすいですが、一方で組織として非常にクリエイティブです。

【1】権限委譲によって従業員の自主性や意欲を高める

前述の通り、「エンパワーメント」は「マイクロマネジメント」の真逆です。マイクロマネジメントは指示が具体的かつ細かいため、従業員の自主性などは抑制されます。そうしたマネジメント手法は従業員の意欲にはつながりにくいものです。
逆に「エンパワーメント」は権限委譲を進めることで、一人一人の自主性や意欲を刺激する効果が期待されます。
 
 

【2】従業員の早期育成に繋がる

「エンパワーメント」を意識したマネジメントでは、たとえ小さなものであっても従業員一人一人が「委譲されたその権限内での自由度がある」状態になります。自ら考え、自らアクションし、効果検証するといったサイクルを一人一人が高速で実施可能。
マイクロマネジメント型の組織ではマネージャー級以上でないと出来ない行動を、一人一人が行うため、従業員の早期育成に繋がります。

一方、「どこからどこまでをどのように権限委譲するのか」の見極めは、体制作りの初期で非常に重要です。
 
 

【3】中途人材の早期適合に繋がる

マイクロマネジメント型の組織では、中途人材は「前職では権限があったのに、新しい環境では権限が十分にない」といった状況に陥ることもしばしばです。環境の変化に馴染めない社員が悩む大きなポイントは、こうした権限の範囲の違いです。
小さくとも権限を早くから与えることで、中途人材も自分の判断でのびのびと動きやすく、早期の適応が期待されます。
 
 

組織における「エンパワーメント」のメリット

エンパワーメントは、従業員だけでなく、組織にとっても多くのメリットをもたらします。
 
 

社員:成長機会が日常の仕事で多く得られる

成長機会が仕事の中で、多く得やすくなります。上司は部下に権限と責任を与え、部下はその重責を進んで引き受けるという環境が生まれるため、従業員はコンピテンス(自己効力感)が高まります。「自分はやればできる」という感覚が生まれ、努力を重ねる社員が増えるでしょう。
また上司の指示の裏にある「本来的な目的」が深く理解できるようになります。これにより上司への不満が和らいだり、自社の事業やビジネスモデルへの理解が深まる効果も期待できます。
 
 

管理職:マイクロマネジメントが不要となる

管理職から部下に権限が委譲されるため、マイクロマネジメントが不要となります。管理職がタスクを分類し、割り振る工程そのものが「ボトルネック」となるリスクが低くなります。
 
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エンパワーメントの下地作りのフェーズでは、エンパワーメントする側(上司)のドライブが重要。上司側が権限委譲のリスクも踏まえたうえで、一歩踏み出す勇気が必要です。一歩踏み出すことで社員に成長機会を与え、自分自身がボトルネックとなるリスクも低下させることができます。

経営者:人材の成長スピードが上がる

ここまでに解説してきた通り、「エンパワーメント」を推進することで社員の成長スピードが早まりやすいため、次世代の管理職や役員クラスの人材の育成に適しています。
 
 

エンパワーメントを重視した経営・マネジメントの取り組み例

エンパワーメントを重視した経営・マネジメントの取り組みの代表例がNetflixです。

Netflixは、「自由と責任」という原則に基づいて従業員に権限委譲を行っています。従業員に対して、細かいルールや制限を設けるのではなく、むしろコントロールを減らすことで、能力密度が増すという考え方です。

たとえばNetflixには休暇や経費、旅費に関するルールはなく、各社員が「会社の最善の選択をすること」だけを守っています。また、重要業績評価指標もありません。これは、会社が社員を「ハイパフォーマー」だと認定しているから取り入れられる考え。社員は自由に働ける一方、自由に対して責任が伴うことも意識しています。
こうした考えの元、Netflixは急成長を遂げました。
 

コクヨの取り組み例:ヨコク研究所

 
ヨコク研究所

エンパワーメントに関連する弊社「コクヨ」の取り組み事例としては、リサーチ&デザインラボ「ヨコク研究所」が挙げられます。ヨコク研究所では人やモノ、環境がフラットにつながり、協働を生む「自律協働社会」の実現を目指して活動しています。

具体的にはリサーチ・エンパワーメント・プロトタイピングを活動の主軸としたうえで、フィールドワークやリサーチ・研究の実施、またオウンドメディアなどを通じた活動報告を実施。それらの活動成果をコクヨの企業指針に随時反映していくことを進めています。
 
 

エンパワーメントを高めるには

エンパワーメントを高めるためには、権限委譲は段階的に進める、ミスを許容することも重要といったポイントに注意しましょう。
 
 

権限委譲は段階的に進める

「どこからどこまで、権限を委譲すべきか」の検討は慎重に行いましょう。若手に権限を積極的に与えることも重要ですが、一方で中にはマネージャー級の人材でなくては意思決定できない事項もあるものです。またマイクロマネジメントによって事細かな指示を与える方が、活躍できる社員も中にはいます。
先ほどNetflixを例に出しましたが、真似をして突然すべての権限を社員に委ねるのはあまりおすすめしません。小さなものから少しずつ委譲していきましょう。
 
 

ミスを許容することも重要

「ミスを一切許可しない」というスタンスのまま、権限委譲を行ってもミスを恐れて社員が及び腰になるでしょう。社員に成長機会を与えることは、ミスが増えることと表裏一体です。ミスを許容することも重要であり、逆に言えば「絶対にミスが許されない業務」は権限委譲の対象から事前に省いておくとよいでしょう。
 
 

テレワークにおける「エンパワーメント」の注意点

社員が自律的にアクションを行うワークスタイルは「テレワーク」や「ハイブリッドワーク」との相性が優れています。一方で「テレワーク」かつ「エンパワーメントによる権限委譲」という働き方には、デメリットもあります。
最後にテレワークにおける「エンパワーメント」の注意点も紹介します。
 
 

コミュニケーションの「タコツボ化」

テレワークでは対面のコミュニケーションが減少し、なおかつ権限委譲を進めると上司と部下のコミュニケーションも減少しやすいです。
このことは「コミュニケーションコストの減少」というメリットがあり、一人一人がコア業務に集中できる反面、コミュニケーションがタコツボ化することがデメリットです。
「部下が今、何の仕事をしているのか」「想定していないようなおかしな動きをしていないか」など、上司から見えない状況になるリスクがあります。

上司と部下の間でコミュニケーションが無くなり、それぞれが他の人や部門に関心が無いという状態を避けることも意識しましょう。
 
 

管理職から積極的に現場の情報を取りに行くべき

基本的には管理職から現場の情報を取りに行くことを意識しましょう。
これは「テレワークをする社員を監視する」という意味ではありません。
たとえば定期的なレポーティングを社員一人一人に義務付けつつ、週に1日~2日程度は出社をし、その際にはランチをしたりラウンジで世間話をするといったことを意味します。
あくまで権限を委ねていることを前提としながらも、「常にあなたのことは気にかけているし、いつでも力になる」というメッセージを部下に発信するように管理職側が意識しましょう。
 
 

まとめ

従業員に権限や裁量を与えると、従業員は自分の仕事に対して責任感や主体性を持つようになります。自分で判断して行動できることは、従業員の自信や満足感にもつながります。また、権限委譲は、従業員が自分の能力やスキルを発揮できる機会を増やします。これは、従業員のやる気やモチベーションを高める効果があります。

一方、テレワーク中のエンパワーメントは、社員同士のコミュニケーションが減少してしまわないように注意することも必要。管理職は、テレワークでも定期的に従業員とコミュニケーションを取ることや、従業員からフィードバックを求めることや、従業員の成果や貢献を評価することを心がけるべきでしょう。