石川善樹さん
予防医学研究者、博士(医学)
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。
「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。
専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。
移動メインから一転、一カ所に留まる生活がストレスに
「医学博士というと研究をしていたりパソコンと向き合っているイメージがあるかもしれませんが、私の場合は人と話をしたり、その内容をホワイトボードにまとめたりといったことが多いですね。さまざまな悩みや想いを持った方と一緒に『どうすれば良いか』を考えるわけですが、その内容は事業継承・人事関連といったビジネスの内容や、人が何かを習慣化するにはどうしたらいいのか・サウナはなぜ身体に良いのかといった人体に関する内容、果ては『万博のテーマをどうしよう』なんてものもあり、多岐にわたります」
仕事の特性上、「自分の会社に出社する」ということはこれまでもなかった石川さんですが、こうした打ち合わせのための外出は毎日のようにしていました。もともと「移動することが好き」という石川さんは、あまり一つの場所に留まっていることが得意ではないそうで、
「移動をすることで新しいことに触れることができたり、人との出会いがあったりすることが楽しいんです。そのため、自宅もずっと同じ場所ではなくいつでも移動しやすいようにしています。モノはできるだけ持たないようにしていて、今の家に引っ越してきた時も荷物は段ボール1箱分しかありませんでした」
「対面での打ち合わせができないので、パソコンでのリモートがメインとなりました。だけど家には小さな子どもがいるので集中できない。そこで部屋を一個増やす感覚で、自宅近くに仕事用のワンルームマンションを借りました。しかしそれでもずっと同じ空間で過ごすということに慣れていないこともあり、最初は戸惑いました」
“五感のゆらぎ”をポイントに、部屋の中でリラックスできる工夫を
「特別な道具を使わなくても、自分だけにぴったりなものをつくることって可能なんだなと気づきました。たとえば私は眠気を防ぐため、仕事をするデスクはスタンディングタイプを使用したい派なのですが、専用のデスクを購入するのではなく突っ張り棒で自作してみました。そういう工夫や試行錯誤をするのも脳への刺激となると思います」
「より良い仕事環境というのは人によって異なりますから、誰かの何かをただマネするだけではなく、『自分がどんな時に心地よいのか』を考えると良いかもしれませんね。過去から現在の自分の体験を振り返ってみて、心地よかった体験をもとに環境づくりをしていけば、より自分らしいものになるのではないでしょうか。さらに、より良い空間づくりというのは『完成することがないものだ』と考えるべきです。人間はどうしても飽きる生き物ですし、自分自身も変わっていきます。常に試行錯誤を続けることが大事ですね」
「お気に入りアイテムは持たない」理由とは
「週に2日は自宅から6歳の子どもを幼稚園まで送ったあと、仕事用のワンルームマンションへ向かい、9時から12時頃まで自作したスタンディングデスクに置いたパソコンの前でオンライン打ち合わせをしていることが多いですね。立っている場所には黒い畳を敷いています。足元が畳というだけで疲れ方が違う気がしますね。その後、昼食をとり、さらに18時くらいまで仕事をし、日が暮れて部屋が暗くなったら自宅へ帰るという感じです。
ネイチャーアクアリウムの水は週に2回水槽ほど、1時間くらいかけて入れ替える必要があるのですが、とにかく、『毎日これをこの時間にやる』と決めるのがあまり好きではないため、約束がなければその日の気分で何時に仕事用のワンルームマンションへ到着するのか、その日は何をするのかといったことを決めていますね」
「パソコンでの仕事は仕事用のワンルームマンション(もしくは自宅)でしかしない、と決めています。もともと移動するのが好きだということはお話しましたが、コロナ禍でも可能な時はマンション周辺の緑道を歩きながら考え事をしています。その時にはカバンなどは一切持たず、スマホとノートしか持ち歩きません。時には歩きながらスマホでオンライン打ち合わせを行うこともあります。重いのが嫌だからというのもありますが、身軽だと『今日はサウナにいってみようかな』とか、ふと『あそこにいってみようかな』とか思い立ってもすぐ行動ができるんです」
自宅も、自分自身も、常に「移動がしやすい」ことを重視している石川さんは「物が増えてしまうので敢えてお気に入りアイテムは持たないようにしている」とのことで、
「唯一気に入っていて必ず持ち歩いているのはコクヨのキャンパスノートくらいでしょうか。打ち合わせの中身を全部ノート一冊にまとめているのですが、タブレットと違って軽いし、電源がなくても使えるし、前回の打ち合わせの内容を見返そう、と思ったときになかなか探しているページまでたどり着けずに全然違うページに寄り道しちゃったりするのもまたいいですよね」
「出会った人とは、まず旅行に行きたいと考えていて。旅行に行くことでその道中たくさん会話をしたりどういう考えを持っているのかを知ることができたりして、そこから仕事が広がることもあります。なので、もっと世の中が落ち着いたらさらに出会いの輪を広げつつ、たくさん旅行にいけたらいいなと思っています」