テレワークで生産性は上がる?下がる?国内の各種調査例や海外との比較を通じて解説

テレワークは本当に生産性が下がるのでしょうか?この記事ではテレワークの生産性についてさまざまな調査例を紹介。海外の事例を紹介しながら解説します。

日本ではコロナ禍をきっかけに多くの企業が取り入れて普及したテレワーク。しかし、アフターコロナになり、元々テレワーク導入率が高かった海外企業が次々とテレワークの廃止を発表し、話題に。また日本企業の中にも、テレワークの廃止の動きがあります。

しかし、実際テレワークはオフィスワークと比べて生産性に違いはあるのでしょうか。この記事では、国内企業のテレワークの実施状況と、テレワークの生産性について解説します。
 
 

そもそもテレワーク(Telework)とは?

テレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用して、自宅やサテライトオフィスなど、従来のオフィス以外の場所で仕事を行うことを指します。
 
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自宅以外での仕事も「テレワーク」となりますが、「テレワーク=在宅勤務」というイメージを抱いている人も少なくないでしょう。実際には「出先で中途半端な時間が余ったため、カフェで仕事をする」「移動中の新幹線で仕事をする」などもテレワークに含まれます。

なお、テレワークについて詳しくは以下の記事でも解説しているので参考にしてください。
【簡単図解】テレワークって結局どんな働き方?「向く仕事・向かない仕事」やメリット -

【簡単図解】テレワークって結局どんな働き方?「向く仕事・向かない仕事」やメリット -

【簡単図解】テレワークって結局どんな働き方?「向く仕事・向かない仕事」やメリット -

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業が導入したテレワーク。この記事では、そもそもテレワークとはどんな働き方か、また、そのメリットや課題について図解を交えながらご紹介します。

テレワークの実施状況

国内企業のテレワークの実施状況の一例は、以下の通り。たとえば地域別に実施状況を見ていくと、東北地方のテレワーク実施率が極めて低い反面で上場企業の実施率は全国的に高いのが特徴的です。
 
 

上場企業:70%が実施(明治安田厚生事業団調べ)

公益財団法人明治安田厚生事業団が2023年8月29日に発表した調査結果によると、全国の上場企業のうち、現在(調査時期2023年2~3月)も「テレワークを実施している」と答えた企業は70%。

一方、テレワーク実施企業のうち、「従業員の7割以上がテレワークを実施している」と答えた企業は28%で、もっとも多かったのは「1~3割未満」の38%でした。
なお、平均的なテレワーク日数は「週2~3回」が40%で、もっとも多い数値となりました。

参考:企業における運動を活用した健康づくりに関するアンケート
 
 

全国平均:19%が実施(総務省調べ)

総務省が2023年7月21日に発表した就業構造基本調査によると、2022年度のテレワークの実施割合は全国平均で19.1%。上場企業に比べ、かなり低い数値になりました。

なお、全国ワーストで実施率が低かった県は青森県の7.2%。東北6県はすべての県でテレワーク実施率が全国平均を下回っていました。

参考:総務省「令和4年就業構造基本調査の結果
 
 

テレワークとオフィスワークはどちらが生産性が高いの?

テレワークとオフィスワークの生産性について、さまざまな観点から分析すると「多くのケースでテレワークは生産性が下がる」のが明確です。ただし日本のテレワーク生産性が海外に比べて低いというデータもあり、企業側のテレワークの受け入れ態勢にも問題がありそうです。
 
 

多くのケースでテレワークは生産性が下がる

テレワークの状況や導入に至った経緯、職種などはそれぞれのため、明確な基準はありません。しかし、一般的には多くのケースでテレワークはオフィスワークよりも生産性が下がる傾向にあると言えます。

たとえば、Adobeが2020年9月に発表した「COVID-19禍における生産性と在宅勤務に関する調査」によると、コロナ禍でテレワークが導入された日本企業の労働者の約4割が「在宅勤務は生産性が下がる」と回答したとのこと。

つまり、「感染症対策が楽になる」「通勤がなくなる」というメリットを差し引いても、働く当事者の半数近くが「生産性が下がる」と感じていたことになります。
 
 

「月刊総務」の調査データ:オフィス予算を増加する傾向も

総務専門誌「月刊総務」が2023年3月に発表した「オフィスについての調査」によると、今後の働き方について、「オフィスとテレワークの融合」になると思うと答えた総務担当者が全体の67.4%、つまり約7割を占めたそう。
 
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しかし、「オフィスメイン」も前年と比べて2.1%増加。「テレワークメイン」は4%も下がっています。

一方、「オフィスの方が生産性高く働ける」と答えた人は74.6%と、2022年の調査結果の54.2%から20.4%も増加。
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「テレワークの方が生産性が高い」と答えた人は25.4%に留まってしまいました。

テレワークが急速に普及した2020年、2021年と比較すると、やはり「オフィスの方が生産性高く働ける」という声が大きく高まっているのが特徴的です。

その声を受けて、全体の2割の企業が「オフィス予算を拡大方針」にあるのも特徴的。「オフィスとテレワークの融合」を目指す企業は変わらず多いものの、意見集約と決断のスピードを重視し、コミュニケーションの中心地としてのオフィスの価値を見直す企業が増えていると言えるでしょう。
 
 

【海外との比較】日本のテレワークの生産性は10か国中最下位

国内ではオフィス回帰の動きが見られることは確実ですが、オフィスを重要視する声が高まる背景には「そもそも国内企業のテレワークの生産性が低い」ということも上げられるでしょう。

レノボが2020年7月に発表した「テクノロジーと働き方の進化」によると、「在宅勤務の生産性はオフィス勤務より下がる」と答えた人の割合は、日本は10か国(日本、米国、ブラジル、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、中国、インド)中、1位の40%。2位の中国でも16%だったため、特異な数値となってしまいました。

なお、同調査によると、コロナ禍による在宅勤務開始時に新たに購入した機器の支出金額も日本はワースト1位のため、「日本は物理的にテレワーク環境が整っていないため、生産性が下がると感じる人が多い」ということが分かります。
 
 

日本のテレワークの生産性が高まりづらい理由

こうした結果を受け、日本のテレワークの生産性が高まりにくくなっている理由について分析しました。
 
 

メンバーシップ型雇用

日本の多くの企業は、メンバーシップ型雇用と呼ばれる、長期的・安定的な雇用関係を基盤とした人事制度を採用しています。
 
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メンバーシップ型雇用は、労働者に職務を割り振る、いわゆる日本的な雇用形態。終身雇用や年功序列を採用しているところが多いです。一方、ジョブ型雇用は欧米に多く見られる雇用形態。職務に対して労働者を割り振り、仕事内容に応じた賃金が支払われます。

メンバーシップ雇用の特徴は、上司の元、社員同士が信頼関係や協力関係を築いていくため、個人の能力が求められるテレワークには不向き。メンバーシップ型雇用では、社員はオフィスに出勤することで自分の存在価値や貢献度を示す傾向がありますが、テレワークではそのような目に見える指標がなくなり自分の評価が下がると感じる人も多いでしょう。

なお、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いについては以下の記事で解説しているので参考にしてください。
【完全ガイド】メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用との違いとは?日本型雇用の欠点と課題 -

【完全ガイド】メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用との違いとは?日本型雇用の欠点と課題 -

【完全ガイド】メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用との違いとは?日本型雇用の欠点と課題 -

近年、日本の労働市場では、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用という二つの概念が注目されています。メンバーシップ型雇用とは、従業員が組織に所属することを前提とした雇用形態で、ジョブ型雇用とは、従業員が特定の仕事に対して報酬を得る雇用形態のこと。この記事は、ふたつの雇用の違いから日本型雇用の欠点と課題をご紹介します。

労働時間をベースにした管理手法

日本の多くの企業は、労働時間で社員の働きぶりを評価する傾向にあります。この方法は、社員の出勤や勤務時間を管理しやすいという利点がありますが、一方で、社員の実際の業務内容や成果に目を向けにくく、生産性の向上には不向きです。また、労働時間をベースにした管理手法では、社員はテレワークでは自分の働いた時間が見えにくくなり、過剰に働いたり、逆に働きにくくなったりする可能性があります。

こうした点も、日本企業がテレワークに向いていない一因といえるでしょう
 
 

テレワークで見込まれる生産性の向上とは具体的にどのようなもの?

これまで日本企業がテレワークに向いていないポイントを挙げてきましたが、テレワークだからこそ生産性の向上が見込める場合もあります。具体例は以下の通りです。
 
 

ミーティング時間が減ってコア業務に集中しやすい

テレワークでは、オフィスでの対面の会議や打ち合わせが減り、オンラインでのミーティングやチャットが増えます。これにより、ミーティングの時間や頻度が短くなったり、必要な人だけが参加することが可能です。また、オンラインミーティングでは、議題や目的が明確になり、効率的に進められるため、テレワークでは、無駄なミーティングや打ち合わせが減り、コア業務に集中しやすくなります。
 
 

通勤時間を業務に充てられる

テレワークでは、オフィスに通勤する必要がなくなるため、通勤時間の節約が可能。日本の場合、平均で約1時間程度と言われているこの通勤時間を業務に充てることができれば、生産性を向上させることができます。
 
 

時間が柔軟に使える

テレワークでは、オフィスに拘束されることがなく、時間が柔軟に使えます。これにより、自分の体調や気分や集中力に合わせて、仕事のペースやスケジュールを調整することができるでしょう。また、自分のライフスタイルや家庭の事情に合わせて、仕事とプライベートのバランスを取ることができ、結果的に生産性の向上にも繋がります。
 
 

テレワークに向く仕事・向かない仕事

一概に「テレワーク」といっても、向いている仕事と向いていない仕事が存在します。
 
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たとえば「指示が絶対」「セキュリティ上のリスクが高い」「一人ではできない」といった仕事内容の場合、テレワークに向いているとはいえません。逆に、成果が目に見えて評価しやすく、対面での打ち合わせもない業務の場合、テレワークに向いているといえるでしょう。

なお、テレワークに向いている仕事、そうでない仕事は以下の記事でも解説しています。
【簡単図解】テレワークって結局どんな働き方?「向く仕事・向かない仕事」やメリット -

【簡単図解】テレワークって結局どんな働き方?「向く仕事・向かない仕事」やメリット -

【簡単図解】テレワークって結局どんな働き方?「向く仕事・向かない仕事」やメリット -

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業が導入したテレワーク。この記事では、そもそもテレワークとはどんな働き方か、また、そのメリットや課題について図解を交えながらご紹介します。

テレワークの生産性を一層向上するには?

テレワークの生産性の向上には様々な要因が関係するということを述べましたが、それは個人や組織の努力によっても変えることができます。

個人としては、自分の仕事の目的や成果を明確にする、仕事の進捗を定期的に共有する、他の社員とのコミュニケーションをオンラインで円滑に行うといった方法があります。

組織としては、まず社員にテレワークに必要な機器を与えた上で、オンライン上でフィードバックができる体制を整える、必要な情報はこまめに共有する、社員が孤独感を覚えないような環境づくりが必要となります。
 
 

まとめ

日本において主流となっているメンバーシップ雇用や、労働時間をベースにした管理手法、物理的なテレワーク環境の不備などの理由から、海外と比較してもテレワークの生産性が上がりにくい環境にあると言える現在。実際に調査結果からも、「オフィスの方が生産性が上がる」との回答の割合が増えつつあります。

しかし、柔軟な働き方を求める人が増えている傾向にあるのも事実です。完全なテレワークでなくとも、自分のライフスタイルや仕事のスタイルに合わせて、オフィスに出社する日数や時間を選ぶことができる、ハイブリッドワークを導入するなど、従業員と企業の双方にとってメリットのある働き方が求められるでしょう。