労働基準法における「有給休暇」の基本ルールや付与要件と見落としがちなポイント

労働基準法で定められた「有給休暇」は、労働者としての権利であり、会社から義務的に付与される休暇です。しかし、意外と見落としがちなポイントも多く、せっかくの権利を無駄にしてしまっているケースも。この記事では、労働基準法における有給休暇の基本ルールと、意外と見落としがちなポイントについて解説します。

近年は、在宅勤務やハイブリッドワークが「新しい働き方」として定着しています。
 
 (22381)

ちなみにハイブリッドワークはオフィスワークとリモートワークの中間のような働き方。テレワークは完全に社外でのリモート勤務となります。

ハイブリッドワークとテレワークの違いは?メリットと普及率や実際の出社率、課題 -

ハイブリッドワークとテレワークの違いは?メリットと普及率や実際の出社率、課題 -

ハイブリッドワークとテレワークの違いは?メリットと普及率や実際の出社率、課題 -

テレワークは、完全に自宅で仕事をする働き方。一方、ハイブリッドワークは、オフィスに出社する日と自宅で仕事をする日を組み合わせて働くことを指します。この記事では双方の働き方の違いや課題について解説します。

新しい働き方が浸透する中、意外と各社で運用にバラつきが出始めているのが「有給休暇」の付与や利用に関するルールです。

たとえば神戸新聞の報道によると、過去には「テレワーク導入後、作業量の少ない日の半日分を有給休暇とさせ、社員から不満の声が上がった会社」もあるそう。なお社会保険労務士によると、こうした対応は労働基準法の観点から問題になるとのこと。
(出典:神戸新聞NEXT

そこでこの記事では、改めて有給休暇の基本ルールや要件をおさらい。見落としがちなポイントなどを見ていきましょう。
 
 

労働基準法における有給休暇の基本ルール

労働基準法では、労働者が一定期間勤務した後、賃金を受け取りながら休暇を取得できる「有給休暇」が定められています。
詳しくは後述しますが、有給休暇の対象となるのは雇い入れから6ヶ月以上経ち、その期間の労働日の8割以上出勤している人。パートであっても対象となりますが、条件は少々異なります。
 
 

有給休暇の付与要件と基本の付与日数

通常の労働者に対する有給休暇の付与日数は、勤続年数に応じて以下のようになります。
勤続勤務年数(年)  0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
付与日数(日) 10 11 12 14 16 18 20
先述した通り、基本的に社員は入社半年後から有給休暇を取得することができます。 有給休暇の付与日数は継続勤務年数によって異なります。まずは半年(0.5年)で10日の有給休暇が付与され、その後1年6ヶ月(1.5年)で11日、2年6ヶ月(2.5年)で12日と増えていきます。

なお、パートタイムの場合は以下のように変わります。
週所定労働時間が30時間未満、かつ、週所定労働日数が4日以下、または1年間の所定労働日数が48日から216日までの労働者の場合は以下の通り。
 
 (22393)

1年間の所定労働日数が217日以上の場合は通常の社員と変わりませんが、週所定労働日数が4日以下、または1年間の所定労働日数が48日から216日までの労働者の場合はそれに準じて有給休暇の付与日数が減ります。

 
 

社員の有給休暇取得は義務?

社員の有給取得は労働基準法で定められた義務です。
 
 (22400)

先述した通り、基本的に入社して6ヶ月以上経った社員には10日間、直近1年間の出勤率が8割のパートタイム労働者も有給取得が可能です。

これは、2019年4月から施行された働き方改革関連法に基づく措置。労働者には管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。
 
 

在宅勤務(フルリモート)の社員でも通常通りの付与日数が得られるの?

在宅勤務やフルリモートの社員も、オフィスで働く社員と同様に有給休暇が付与されます。このことは、厚生労働省発行の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」に記載にも記載されています。
具体的には「在宅勤務を行う場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法等の労働基準関係法令が適用される」と明記されています。
 
 

意外と見落としがちな「有給休暇に関するルール」

有給休暇には、意外と正社員として勤務するビジネスパーソンの方だけでなく、雇用主側も見落としがちなルールや制度が存在します。
 
 (22425)
改めて1つ1つ見ていきましょう。
 
 

実は「時間単位」の有給休暇も取得可能

有給休暇は1日単位ではなく、時間単位で取得することも可能。たとえば、午前休や午後休に使えます。

(参考:労働基準法第三十九条
 
 

有給休暇の取り方を定める法律は「時季変更権」のみ

時季変更権とは、労働基準法に基づき、従業員が指定した有給休暇の取得日を会社側が変更できる権利のこと。
基本的に有給休暇は従業員側から申し出るものですが、たとえば他にも多くの人が同じ日に有給休暇を申請していて、かつそれが繁忙期だった場合など、会社側はその社員の有給休暇を他の日にずらすように権利を行使することができます。
とはいえ、単なる「繁忙期」や「人手不足」などの安易な理由では時季変更権を行使することは認められません。

(参考:労働基準法第三十九条第五項
 
 

有給休暇の繰越しは、原則として2年間可能である

有給休暇は請求権の時効が2年のため、基本的に2年有給休暇を繰り越すことが可能です。たとえば前年の有給休暇が5日余っていて、今年分の有給休暇が12日ある場合、トータルで17日の有給休暇を取得することが可能です。

(参考:労働基準法
 
 

労働者に不利益な取り扱いはNG

労働基準法では、有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額その他不利益な取扱いをしないよう規定されています。たとえば繁忙期に有給休暇を取得したからといって、その後冷遇されるようなことは労働基準法に違反しているといえます。

(参考:労働基準法百三十六条
 
 

有給休暇は退職者でも取得できる

退職時に未使用の有給休暇がある場合、従業員は退職日までにその休暇を取得する権利があります。本来の業務終了日に有給休暇の日数をプラスして退職日を決定するのが一般的。退職日を過ぎると有給休暇は消滅するため、退職日前に消化することが重要です。
 
 

産休や介護休暇は「出勤したもの」とカウントして付与日数を決める

産前産後休暇、育児休暇、介護休暇や労災による休暇の間は、基本的に出勤日としてカウントされます。つまり、その期間も有給休暇の付与のカウントの対象となります。
たとえば育休明けで1年間休んでいた人にも、継続勤務年数に対する有給休暇が与えられます。

(参考:労働基準法三十九条
 
 

短時間勤務の社員でも有給休暇取得はできる?

短時間勤務の社員も、勤務条件に応じて有給休暇を取得することができます。取得できる日数は先ほど紹介した表の通り。勤務日数によってはフルタイム出勤の社員よりも有給休暇が短くなってしまう可能性もあります。

(参考:労働基準法三十九条
 
 

在宅勤務などの社員の有給休暇の付与に関連して社内で整備すべきこと

在宅勤務やテレワークを行う社員の有給休暇の管理は、労働時間の正確な把握が不可欠です。企業は、労働時間の記録を適切に行い、有給休暇の付与日数を正しく計算するための体制を整える必要があります。
 
 

労働時間の把握

冒頭でも触れた通り、企業は在宅勤務の社員に対しても、労働日数に基づいた有給休暇を付与する決まりになっています。このために、労働時間管理システムの導入や、労働者自身による時間記録の徹底が求められます。

テレワーク時の労務管理や監視ツールについては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
テレワークに「監視」は本当に必要?監視が労務管理に役立つ例や監視方法、ツール例 -

テレワークに「監視」は本当に必要?監視が労務管理に役立つ例や監視方法、ツール例 -

テレワークに「監視」は本当に必要?監視が労務管理に役立つ例や監視方法、ツール例 -

テレワーク時の監視は、社員が適切な環境で働けているか確認するうえで必要です。労務管理にも役立ちます。監視ツールがどう役立つのかおすすめのツールとともに紹介します。

在宅勤務・テレワークの労働に関する「テレワーク規定」を設ける

在宅勤務やテレワークを行う社員のための「テレワーク規定」を設けることで、企業と社員側で労働条件や有給休暇の取得方法に関する明確なガイドラインを共有することができます。これにより、社員と企業の双方にとって公平な労働環境が確保されます。
 
 

まとめ

この記事では、労働基準法に基づく有給休暇の基本ルールから、見落としがちなポイントまで、幅広く解説しました。
在宅勤務やハイブリッドワークが広がる中で、意外と「有給休暇」など細かな働き方のルールをどのように適用すればいいのか迷っている方は多いのではないでしょうか。
とはいえ有給休暇は単なる休日ではなく、ビジネスパーソンの権利です。
有給休暇の付与要件、取得義務、付与日数の計算方法、そしてテレワークや在宅勤務で働く社員の扱いなどを改めて見直した上で、有給を労働者が取得しやすい環境づくりを行っていきましょう。

以上、コクヨが運営するテレワークメディア「在宅百貨」がお届けしました!