テレワーク活用の成功事例集3選とリモートワーク組織構築のポイントを解説

テレワークの成功事例と導入のポイントを解説。カルビーやNTTアイティなどの具体例を紹介し、リモートワーク組織構築の重要ポイントをご紹介します。

コロナ禍で暫定的にテレワークを導入せざるを得ず、アフターコロナに移行してからテレワークを取りやめるという企業は少なくありません。2025年現在における『テレワーク』という働き方は暫定的な取り組みではなく、改めて導入ないしは継続目的を整理した上で全社的に取り組むのであれば『リモートワーク組織の構築』自体が必要なフェーズにあると言えるのではないでしょうか。

国内でも製造業や建設業など、一見するとテレワーク導入が難しそうな業種でも、成果を上げている企業は存在します。本記事では、業種や規模を問わず成功を収めた企業の具体的な事例と、リモートワーク組織を構築するための実践的なポイントを紹介します。
 
 

テレワーク活用の主な目的(例)

まずは、感染症対策に代表される暫定的な取り組み「ではない」テレワーク活用の目的を振り返りましょう。
厚生労働省が示すテレワーク導入の主な目的としては、「ワーク・ライフ・バランスの実現」「育児や介護時間の増加」「生産性の向上」「事業継続(BCP)」「人材確保・離職防止」などが挙げられます。

参考元:厚生労働省 平成28年度 テレワークモデル実証事業 テレワーク活用の好事例集
 
 

従業員が離職することなく能力を発揮できる環境づくり

従業員が離職する理由はさまざまですが、リモートワークでは「従来ならば離職せざるを得ない」従業員をフォローできることもあります。たとえば通勤時間の削減によって生まれた時間を家族の介護やリスキリングのための学習時間などに充てることができ、ワークライフバランスの向上につながります。
こうした取り組みは優秀な人材の確保や離職防止にも効果があり、企業にとっても大きなメリットになり得ます。
 
 

従業員の育児・介護と業務の両立の実現

先にも述べた通り、テレワークには「従業員の育児や介護と業務の両立を支援できる」という面が強く存在します。遠隔で仕事ができることで、家族の急な病気や介護の必要性に柔軟に対応できるようになり、自身は健康なビジネスパーソンとしてキャリアを中断することなく仕事を続けられるようになります。
 
 

テレワーク活用の成功事例集

テレワークの国内における成功事例を振り返るには「ウィズコロナの時代の取り組み」と「それ以外の取り組み」を分けて考える必要があるでしょう。
2020年以降の新型コロナの感染拡大に伴うテレワークは緊急的なもので、前項で述べたような「従業員の働き方の幅を広げる」「ワークライフバランスを実現する」ような取り組みとは色合いが異なるのも事実であるためです。
感染拡大に対する防止策としてのテレワークを2025年現在に取り入れることの意味は小さいでしょう。

そこでここではあえて新型コロナの感染拡大「以前」の、テレワークの試みの中から成功事例と称される機会が多いものをピックアップしました。

なお、今回参考にするのは3年度にわたり、厚生労働省の「テレワークモデル実証事業」を行ってきた企業の成功事例。平成28年度に発表されたテレワーク活用好事例集を参考にしています。
 
 

カルビー株式会社

カルビー株式会社が本格的に在宅勤務制度を導入したのは2014年。当初は作業場所は自宅のみで、実施頻度は週2日が上限でしたが、2017年に日数上限は撤廃され、勤務場所も自宅以外が可能になりました。ICTツールは会社貸与のパソコンと携帯電話です。
カルビーがもともとテレワークを導入した理由は、働き方に対する意識改革。通勤時間を「ライフ」に充てることができ、肉体的・精神的なストレスから解放されるというメリットで「ライフワークバランス」と 「成果主義」の働き方改革を推進しています。
 
 

NTTアイティ株式会社(現・NTTテクノクロス)(情報通信業)

NTTテクノクロスは2016年にNTTソフトウェア株式会社とNTTアイティ株式会社が合併してできた企業。NTTアイティ株式会時代は2008年から在宅勤務制度を本格導入し、基本的に全社員が利用可能でした。
注目すべきは自社ツール「マジックコネクト」「ビズドア」というICTツールを利用するという点。「マジックコネクト」は手元の端末でオフィスPCを操作できるリモートアクセスサービスツールで、「ビズドア」は業務システムの利用に特化したスマートフォン専用のサービスです。自社での利用実績もあり、「マジックコネクト」は2024年時点で累計20,000社以上に導入されています。
なお、NTTテクノクロスでは在宅勤務制度はさらに手厚いものとなっており、かつては利用上限回数が月5回だったにも関わらず、日数制限は撤廃。さらにリモートワーク手当も支給されます。
 
 

積水ハウス株式会社(建設業)

積水ハウス株式会社は2015年8月から在宅勤務制度を本格的に運用開始。育児や介護中の社員を対象に、終日在宅勤務にくわえ、スポット在宅勤務を組み合わせる方法を取り入れました。なお、場合によっては勤務時間も5時~22時の間で拡張できます。
また、現在は育児や介護、妊娠・傷病以外の利用でも在宅勤務ができるようになっています。
 
 

テレワーク普及のボトルネックは何か?

先にご紹介した『成功事例』の通り、国内の大企業でテレワークに取り組み、成功を収めているケースは決して少なくありません。
一方でアフターコロナで出社回帰し、そのままテレワークへの取り組みが縮小してしまった企業もまた少なくないでしょう。
 
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国土交通省が2023年3月に発表した2022年度の「テレワーク人口実態調査」を見てみると、コロナ禍の2020年度にテレワーク率が前年比4ポイントも上昇したにも関わらず、アフターコロナの時期にあたる2022年度から下落傾向にあることが分かります。

2025年現在、テレワークの導入企業の割合は45.9%に達したものの、多くの企業が「形だけのリモートワーク」に苦慮しています。正社員の実施率は22.6%など、導入だけではなく実施率ベースで集計すると10%~20%台という低い数値となります。

ではテレワーク普及のボトルネックは何なのでしょう?
まず1つ目の課題は「社員の評価基準」です。従来の「時間管理型」評価システムが残存する企業では、リモート環境でのアウトプット評価が機能しづらい側面があります。成果物ではなく労働時間で評価が決まってしまう場合、テレワークは単に「何時間働いたか」が分かりづらい働き方のためです。

また意外な盲点が「オフィス依存型の福利厚生」です。社食やマッサージサービスなど物理的福利に依存してきた企業は、リモート環境での従業員エンゲージメント維持に苦戦しがちでもあります。これら複合的な要因がリモート移行を阻んでいると言えるのではないでしょうか。
 
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以下の記事で詳しく紹介していますが、テレワークには、業務量や業務効率に悪影響がある可能性や、コミュニケーションの難易度の高さ、労務管理やマネジメントの難しさなどのデメリットがあります。

テレワークが抱える主なデメリットと解決策!DX化や働き方改革の成功に繋げるには? -

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コロナ禍でテレワークが急速に普及しましたが、アフターコロナではテレワークの廃止の動きも。アフターコロナの今、改めてテレワークのメリットとデメリットを考えてみましょう。テレワークのデメリットを克服し、DX化や働き方改革の成功に繋げる方法を紹介します。

もっともこれらの盲点やテレワークのデメリットは工夫や制度の移行で乗り越えられる点も、決して少なくありません。つまり、ボトルネックは「管理者のマインドセット」にあると言えるのかもしれません。
 
 

リモートワーク組織構築のポイント(※一部)

本稿の前半で述べた通り、テレワークで大きな成果を上げている国内の大企業は存在します。しかしテレワークの普及率や実施率で見ると、特に実施率は10%~20%に留まるなど、多くの国内企業は「リモートワーク組織の構築に成功している」とまでは言えないのではないでしょうか。

では『リモートワーク組織を構築する』には何が必要なのでしょうか?
本稿では最後に世界最高峰のリモートワーク組織として知られる『GitLab』が公式サイトに公開している『All Remote』の情報をもとに、リモートワーク組織の構築のポイントを一部ご紹介します。
 
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『GitLab』は公式サイト上で、リモートワークの完全ガイド「The GitLab Handbook」を公開。世界中から人材を雇用し、フレックスタイム勤務で100%リモート勤務を実現したその構築方法やメリットなどを紹介しています。

なお、「GitLab Handbook」は書籍化もされており、多くのビジネスパーソンから注目されています。「GitLab」がそれほどリモートワーク組織の作り方として非常に名高いことが分かるのではないでしょうか。

引用元: Amazon

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以下で「GitLab」のリモートワーク組織の構築のポイントをいくつか紹介しますが、もしもすべての内容を参照したい場合は「The GitLab Handbook」にアクセスするか、上記でご紹介した書籍を手に取ることもおすすめします。
 
 

経営陣をリモートにする

経営チーム自らがリモートワークを実践し、非同期コミュニケーションを実践。「ロールモデル」となることがまず重要です。
なおGitLabはあらゆるやり取りを非同期で行っているわけではなく、3回程度非同期でやり取りが続いて問題が解決しない場合は、ビデオ会議をする目安というルールも別で存在しているようです。

肝心なのは非同期コミュニケーションを軸にやり取りをしつつ、重要な内容はビデオ会議で迅速にすり合わせて意思決定することを「経営陣自らが実践すること」と言えるでしょう。
 
 

リモートインフラを構築する

GitLabは『All Remote』にて「オフィスでの会議に依存している企業は、ZoomやGoogleカレンダーを活用するなど、新しいパラダイムを受け入れる必要があるでしょう。また、会議をデフォルトとする誘惑にかられるかもしれませんが、可能な限り非同期通信に頼るべきです。」と述べています。

つまり、非同期コミュニケーションを重視したリモートインフラを整備した場合、

・どのような混乱が生じるでしょうか?
・現在使用しているツールのうち、完全リモートチームでも引き続き使用できるものは何でしょうか?

といった問いに基づいて、プロセスのデジタル化を進めていく必要があるでしょう。
 
 

企業文化を文書化する

GitLabはリモートワーク組織を作るにあたって「文書化されていないものは実行できない」という考え方を掲げており、明文化されていないものや暗黙の了解となっているものを検討し、それぞれを文書化することに取り組んでいます。

行動規範や意思決定フロー、コンフリクトの解決方法を文書化し、暗黙知を形式知へと変換することがリモートワーク組織を構築する前提となると言えるでしょう。
 
 

オフィスを閉鎖する

オフィスを閉鎖することで、「リモートワークに取り組んでいる」ことを全面的にアピールすることができます。これにより、世界中から従業員を雇用したとしても、誰にも疎外感を抱かせることはありません。さらに不動産コストを削減することもできます。
 
 

チームメンバーに設備と教育を提供する

GitLabでは完全リモートで社員のトレーニングを行っています。対面の必要がある場合はカメラチャットを介して行いますが、すべてがハンドブックにより文書化されているため、チームの全員が必要なときに必要な情報にアクセスできるというメリットがあります。
また、オフィス環境の方が仕事がはかどる社員もいる場合もあるため、コワーキングスペースの利用料を会社が負担する方針を検討しましょう。
 
 

リモート移行に反復と透明性を取り入れる

もともとインオフィスの意識が強い企業が突然リモートワークを取り入れても、大きな課題が残るでしょう。しかし、リーダーが上手くいっていることと上手くいっていないことを整理してオープンにすることで、信頼とコミュニケーションを得ることができます。
 
 

まとめ

テレワークの活用は、従業員の働き方改革や生産性向上、ワークライフバランスの改善など、多くの利点をもたらします。カルビー、NTTアイティ、積水ハウスなどの成功事例からは、経営陣の積極的な関与や適切なツールの活用、企業文化の維持が重要であることがわかります。一方で、コミュニケーションの課題や勤怠管理の難しさなど、克服すべき課題も存在します。リモートワーク組織を構築する際は、経営陣自身がリモートワークを実践し、適切なインフラを整備し、企業文化を明確に文書化するなどの取り組みが重要です。これらのポイントを押さえることで、より効果的なテレワーク環境を構築し、組織全体の生産性と従業員満足度の向上につなげることができるでしょう。