親子ワーケーションは「子を持つ女性に最も必要な働き方」か「無理ゲー」か:今村茜さんに聞いてみた

子どもがいるとワーケーションは難しいと思っていませんか?今回は親子ワーケーションを実際に行っている今村茜さんにインタビューを行いました。

「親子ワーケーション」という子を連れた旅先での新たなワークスタイルが、子を持つ女性の働き方として注目を集めています。
その理由は、子どもにとっては旅先での探求学習となり、親にとっては仕事と子どもとのお出かけや旅行の時間を両立できること。

一方で親子ワーケーションは、まだまだ一般的な働き方ではなく

・コスパが悪い
・やる意味が分からない
・無理ゲーだ

という声もあります。
親子ワーケーションは「子を持つ女性に必要な働き方」なのでしょうか。それとも単なるコスパが悪い働き方なのでしょうか。
毎日みらい創造ラボ兼毎日新聞記者で、自身もワーケーションを積極的に実践されている今村茜さんに聞いてみました。
 
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今村茜さん プロフィール
毎日みらい創造ラボ兼毎日新聞記者。2006年毎日新聞社入社、経済部等を経て親子ワーケーションのルポ記事執筆を機に新しい働き方を模索する新規事業Next Style Lab(編集企画「リモートワーク最前線」)発足。2020年からは記者を兼務しながら毎日みらい創造ラボで事業展開。親子ワーケーション部代表
 
 

ワーケーションを「やったことがある女性」はわずか1.5%?

– 2021年にOZmallが行ったワーケーションに関する意識調査のデータがあります。すると約64%の女性が「ワーケーションに興味がある」も、やったことがある人はたったの1.5%だったそうです。このデータって、今村さんも近い肌感覚をお持ちでしょうか?

今村:とても近い感覚ですね。特に子どもがいるビジネスパーソンの女性の場合、もっと「やったことがある率」は低い可能性すらあるかもしれません。
子どもがいる女性って、仮に企業がテレワークやワーケーションを就業規則でOKしていても、ワーケーションできないケースがあまりに多いんですよ。

– それはどうしてですか?

今村:たとえば、子どもがいるビジネスパーソンの女性がワーケーションしよう!と考えた場合、最初に問題となるのは「その期間中、子どもをどうするか」だと思います。パートナーが子どもを見てくれればよいですが、難しい場合には、まさか子どもだけ自宅に置いていくわけにはいかないです。
次に問題になるのが、宿泊先です。
たとえば私は2018年~2019年頃から親子ワーケーションを始めたのですが、その時代に親子ワーケーションをしようとしたら現実的な選択肢がホテルステイくらいしかありませんでした。
今では地域の保育園やゲストハウスが子どもの受け入れ先になってくれる例も増えましたが、当時はそうじゃなかったんですよ。
 
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今村さんが2018年7月に和歌山県白浜町で親子ワーケーションをした際の写真。親子ワーケーションの取り組みの最初期の1枚です。

1名の宿泊が3万円のホテルだとしたら、親1人、子ども1人ならばその倍の値段になります。子どもが2人以上いればもっと高くなりますし、連泊しても高くなりますよね。あっという間にワーケーションにかかるコストが10万円以上になります。
単身でホテルでワーケーションするなら「たまにはやろうかな」という方もいると思います。ですが親子だとそうもいかないことが多すぎるのは、お金の面だけを見ても分かるのではないでしょうか。

– なるほど……。

今村:とにかくハードルが色々ありすぎて、2018年~2019年にワーケーションの記事を毎日新聞で発表したときには「やる意味が分からない」「無理ゲーだ」「コスパが悪すぎる」と反応は散々でしたよ(笑)
なので「64%の女性は興味があるが、やったことがある人は1.5%」というデータは私の肌感とも近いですし、その現状を変えるためにも親子ワーケーションに取り組んでいるという面はあります。
 
 

親子ワーケーションは「子を持つ女性に最も必要な働き方」?

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2020年12月、静岡県熱海市で「おんぶ親子ワーケーション」を行った際の写真

– 「無理ゲー」だったり「実践した人が1.5%しかいない」という現状を変えるためにも親子ワーケーションをしている、という点についてもう少し教えてもらえますか?

今村:「親子ワーケーション」は親の仕事のためにも、子どもの教育のためにもいま最も必要なワークスタイルの1つだと思うんです。

現代は「共働き」が当たり前になってきている時代ですよね。すると子どもがいる場合、大きな問題となるのが春休みやゴールデンウィークにも遊びに連れていってあげられないし、平日の放課後は学童に預けてばかり……といったことです。
色んな親御さんとお話をしてみると、そのことに罪悪感を感じている方も少なくないです。他のお家のお子さんは親子でよくお出かけもしているし、旅行にも行っていて、探求学習的な経験を積んでいるのに、自分の子どもにはそういう機会を与えられないというのは親にとって心が痛むものです。
そういう気持ちが、私には痛いほど分かります。たとえば私自身は鹿児島でおてんばに育ったのですが、私の子どもは東京生まれ・東京育ちでコンクリートに囲まれた環境に慣れています。すると公園で見つけた一粒のどんぐりに大喜びするんです。
私はそれを見ると「鹿児島だともっと大量のどんぐりがそこらじゅうに転がっているから、きっと連れていったら楽しんでくれるんじゃないか」と思うんですけど、忙しすぎると連れていくこともすぐにはできません。
だからといって「母親が仕事を辞めたり、長期にわたって休職する」というのは仕事を大切にしている女性にとってあまりに酷ですよね。男性の側が辞職したり、休職するのも同様です。

– そうですね……、子どもの教育と親の仕事の両立は簡単ではないです。

今村「親子ワーケーション」は子どもに探求学習的な学びやアクティビティの場所を用意しつつ、親は仕事を休まずに済む方法の1つになり得ます。
実際、これまでにも「田植え」「クラフト体験」などのアクティビティを親子ワーケーションでは実施してきました。
 
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2022年4月、千葉県南房総市での親子ワーケーションのアクティビティ「田植え」の様子

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2021年12月、鳥取県南部町での親子ワーケーションのアクティビティ「クラフト体験」の様子

今村:「親子ワーケーションなんて無理ゲー」という反応があった時も、この働き方や取り組みを求めている親御さんは全国にいるはずだ!という思いは変わらずに持ち続けていたんです。
そこで私は、2020年の出産を経て、2021年から「親子ワーケーション部」というコミュニティをFacebookで立ち上げました。
 
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今村:開設後、最初のうちはたしか数百名くらいしかコミュニティにはいなかったです。ですが3年を経て、2024年4月時点では2,106名の参加者がいます。
「親子ワーケーションを求めている方は確実にいる」「親子ワーケーションは子を持つ女性に必要な働き方の1つだ」という手ごたえは年々強まっていますね。
 
 

親子ワーケーションは「コスパが悪い働き方」?

– 親子ワーケーションが周囲からの理解を得られない場合、その要因の1つには冒頭でも話が出ていた「コスパ」もあると思います。

今村:そのあたりは現在に至るまで、自治体や各地域の民間事業者さんに働きかけ、もっとも改善に向けて動いた部分の1つです。親子ワーケーションをするのにホテルステイで10万円かかってしまうとしたら「やらなくていい」と考える家庭が多いのはよく理解できます。

具体的には各地域の保育園や学童に働きかけ、親子ワーケーションで母親が仕事中、子どもを預かってもらえるように手配をするといったことが一例です。
また各地域のゲストハウスや宿泊施設の協力も取り付けていて、より費用面での負担感が小さく、気軽に親子ワーケーションに取り組める状況づくりを進めています。

– たとえば母親1人と子ども1人で、3日程度親子ワーケーションを楽しみたい場合、どれくらいの予算感となるのでしょう?

今村:実施時期や子どもの年齢にもよりますが、北海道や沖縄に行くなら10~20万円自宅からマイカーで行ける範囲でゲストハウス泊の自炊なら3~5万円といったところではないでしょうか。
ただ近年は、将来の移住定住層の獲得や地域活性化・関係人口創出を目的に、都市部の親子に地域を知ってもらうきっかけとして、親子ワーケーション企画を開催する地方自治体も増えています。
たとえば、私が企画に携わっている福島県の企画では、7月末と8月末に2泊3日の親子ワーケーションを開催しますが、関係人口創出策としての事業となるため、参加費はぐっと抑えられて、1人1万円ほどです。本記事の最後に、開催予定の企画に関するリンクも載せておきますので是非参考にしてください。
地方での2拠点居住や地域貢献、地域活性化などにご興味のある方は、こういった自治体主催の企画に参加してみるのも手ではないでしょうか。
 
 

子を持つ女性がワーケーションすることへの周囲の理解はどうやって得ればいい?

– 参加者が増えるほど、今村さんの元に「周囲からの理解が得られない」という相談が舞い込むことが増えてはいませんか?

今村:意外と多いのが「親子ワーケーションをしてみたいけれど、夫に反対されてしまう」といった相談です。勤務先の理解が得られない、という相談と同じくらい多いかもしれません。忙しい時間を縫って、何のために親子ワーケーションをやるのかがその夫の方にあまり伝わっていないのかなとも思います。

– 夫に明確に反対されてしまうと、親子ワーケーションをやりづらいというのは確かにあるかもしれません。

今村:実はそうした「夫」にこそ、親子ワーケーションをぜひ体験してほしいんです。
過去に私が主催した親子ワーケーションの参加者の方の中に、非常に多忙なビジネスパーソンの父親とその娘さんというペアがいらっしゃいました。
父親が非常に多忙な場合、娘からすると父親との絆を深める時間も、普段は中々得られないですよね。

– 父親がどんな仕事をしているのか全く知らないし、仕事中の姿を見たことが無いという子どもは少なくないと思います。

今村:その親子にとって、父と娘で過ごす時間は本当に貴重なものだったようです。父と娘だけで過ごす非日常だからこそ、深まる親子の絆もきっとあるはずです。
 
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2019年8月、和歌山県串本町のキャンプ場での親子ワーケーションの様子

ワーケーション後に親御さんから「かけがえのない時間になりました」「親子ワーケーションという形式でなければ間違いなく参加できませんでした」というお声を頂きました。
旅行に行けないくらい忙しい共働きの家って、やはり確実に増えているのではないでしょうか。
共働きの時代になるほど、子どもにとっては「母親と過ごす時間」「父親と過ごす時間」はそれぞれ貴重なものになりつつあると思います。お忙しい親御さんにこそ、子どもとの絆を深める一つの方法として親子ワーケーションというものがあることをぜひ知ってほしいです。
 
 

親子ワーケーションを家庭に取り入れ、成功させるには「親のテレワークスキル」も大事!

– 子どもがワーケーションで完全に旅行気分になってしまうと、どうしても相手をせざるを得なくて、親が仕事をする時間が満足に取れないといったリスクもありそうです。

今村:まず前提として、親子ワーケーションに参加すると「親の仕事の時間中は子どもは別のアクティビティに参加する」といったスケジュールになっていることが多いです。
もちろん、私が主催する親子ワーケーションも同様です。仕事の時間を確保する工夫がされているワーケーションに参加すれば、多くの場合は問題ないと思います。

また「お母さんは旅行に来たのではなく、仕事をしに来たんだよ」と、子どもにしっかり説明することも大切です。主催者の立場から様々な親御さんを見ていると、子どもに「お母さんは仕事をしている」ということが伝わってるご家庭とそうでないご家庭は一目でわかります。
 
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2021年2月埼玉県小鹿野町での親子ワーケーションの様子

今村:お子様がしっかりワーケーションの目的を理解している場合、仕事の時間中は母親に近づかず、他の参加者の子どもと遊ぶなどして距離を取ってくれます。
仮に団体などが主催する親子ワーケーションに参加せず、プライベートに親子ワーケーションを楽しむ場合でも同様に、子どもにしっかりワーケーションの意味を理解してもらうように努めることは大切だと思います。

– 親子ワーケーションを成功させるために、親が普段から気を付けておくべきことはありますか?

今村自宅でもオフィスでもない第三の場所で仕事をすることに「親自身が慣れている」ことはとても大切です。
親がテレワークに慣れていなくて、ワーケーションもやったことがなく、なおかつ普段あまり子どもと旅行にも行っていないという場合、親子ワーケーションの負担は想像以上に大きなものに感じると思います。
旅先への移動で疲れ、普段と異なる環境での仕事に疲れ、子どもとの密接なコミュニケーションにも疲れ、結局、ワーケーション先でまともに仕事ができなかったということになりかねません。
普段と異なる環境での仕事にあまり慣れていないなら、まずはカフェなどの場所でテレワークに慣れることも大切だと思います。

– 親自身のテレワークスキルの有無は、親子ワーケーションがうまくいくかどうかを左右するのですね。

今村:そうですね。もっとも「ものすごく高いテレワークスキルを持っている人」は、男女問わずそれほど多くないとも思うんです。

だからこそはじめのうちはカフェなどでテレワーク経験を積み、「テレワークでも問題なく仕事ができるな」という自信が付いたら、今度は「ワーケーションそのもの」に挑戦してみましょう。

初めのうちはあえて有給休暇を取得した上で、旅先でパソコン作業をまずはやってみることにチャレンジしてみるのもおすすめです。仮にご自身にワーケーションが向いていなくとも、仕事の成果には影響が出ないので。

経験が十分に得られたら、その次の段階として親子ワーケーションにもトライするというステップを踏んでみてはいかがでしょうか。たとえば金・土・日と3日間の親子ワーケーションのスケジュールを組んで、親は金曜日だけはワーケーションをして、土・日は子どもとアクティビティを楽しむのも良いと思います。

このように段階的に親子ワーケーションにトライすることで、親子ワーケーションはかつて揶揄する声もあった「無理ゲー」ではなく、その家庭にとって親が仕事を無理に休む必要がなく、子どもにとっては学習機会になり、親子の絆も深まるかけがえのない時間になり得ると思います!

これから子ども達は夏休みを迎えますが、今年は家族旅行と親子ワーケーションを組み合わせるなどして、無理のない範囲で新しい働き方にチャレンジしてみてはどうでしょうか。

先にお伝えした、私が携わっている福島県の2企画では、7月28日(日)~30日(水)に同県西部の西会津町で自然体験メインの親子ワーケーションが、8月28日(水)~30日(金)に同県南部の天栄村で小学校体験入学をする親子ワーケーションが開かれる予定です。

西会津町では川の沢登りをしますし、天栄村では全校児童2人という小規模校に3日間子どもが体験入学します。

どちらも、都会では味わえない体験ができますし、週末の休みと組み合わせれば、いつもより長期の家族旅行も実現可能です。

ご興味ある方はぜひ、こちらのサイトをご覧いただければ嬉しいです。もちろん私も、現地同行しますよ!ぜひ現地でお会いしましょう。

・7月末開催 親子ワーケーションin福島・西会津町
https://nextstyle43.peatix.com

・8月末開催 ファミリーワーケーションin福島・天栄町
ご紹介オンラインイベント開催ページ(6/6開催)
https://nextstyle42.peatix.com

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