一方、アフターコロナにフェーズが移り変わる中で、出社に回帰する企業が増えているのも事実です。
コロナ禍の時に注目された「地方でのテレワーク」といった働き方は、3年間経った今、期待されたほど広くは浸透していないのも現実ではないでしょうか。
旧来的な「出社勤務」へと立ち戻る企業が増加する中、観光庁で令和4年度「ワーケーション推進事業」アドバイザーを務めるなどワーケーションの分野で活躍する福田和博さんは「アフターコロナで出社回帰する企業は”勿体ない”」と語ります。
神奈川ワーケーションNavi 編集長も務める福田和博さん。上の写真は、福田さんが実際にワーケーションを行った和歌山県・南紀白浜の白良浜の夕暮れ(2023年)
「コロナ以後のテレワーク」「コロナ以後のワーケーション」の価値を再考する際に、ぜひ参考にしてください。
・福田和博さんプロフィール
福田 和博(50歳)
東北大学大学院修了後、大手電機メーカーにて商品企画や新規事業開発などを担当。2015年に横浜で「株式会社ラ・ギターラ」を起業し、複数の新規事業の立上げと事業売却を経験後、現在は起業支援家/エンジェル投資家として活動中。
神奈川ワーケーションNavi 編集長。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ。
観光庁 令和4年度「ワーケーション推進事業」アドバイザー。
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授。
コロナ禍でのテレワークの経験値を国内企業はどう活かすべき?
福田:前職は大手電機メーカーで、オーディオ製品の商品戦略や事業開発の業務をしていました。北米や欧州など海外のパートナー企業との提携交渉を担当していたので、日本時間で早朝や深夜のオンライン会議も多く、裁量労働で在宅でのテレワークも2010年頃からさせてもらっていました。
また趣味がスキューバダイビングだったこともあり、休暇で沖縄や海外に潜りに行った際には出張と同様に会社のノートPCを持ち込んで、緊急のメールなどに対応していたので、結果的にワーケーション的な働き方になってしまっていた感じです(笑)。
年末休暇を過ごしたパラオでのワーケーションの様子(2011年)
―― コロナ禍でのテレワークの普及より10年以上早く、テレワークやワーケーションを実践されていたのですね。ところで多くの国内企業にとって「アフターコロナでもなおテレワークを継続すべきか」は意見が分かれるポイントですよね。
福田:2020年以降、横浜や旅先のコワーキングスペースなどで、テレワークをする会社員の方とお会いする機会がとても増えました。通勤が無くなったことで、在宅やご近所のワークスペースでの業務を楽しんでいらっしゃる方々と話すと、「もう満員電車には戻れない」とおっしゃっていましたね。
一方、コロナ禍で「テレワークがうまくいかない」と悩んでいる企業は多かったのも事実です。出社回帰の動き自体は理解できますし、その中でテレワークを辞めてしまう企業が出てくるのもある程度仕方がないことだとは思います。
個人的には、もしかしたらマネージャー層や経営層の中に、「テレワークを継続」という言葉を、「出社0のフルリモートを継続」と極端に誤解されるケースもあるのでは?と懸念しています。こうした前提に立った議論は本当にもったいないです。テレワークを継続するか否かを「ゼロイチ」で考える方が増えてしまっているのが、テレワークをめぐる議論を変に複雑にしていると感じますね。
―― というと?
福田:私としては、テレワーク勤務を「柔軟に継続」して頂きたいと思っています。従業員側も必要があれば出社すべきですし、逆に企業側も従業員が望むならば柔軟にテレワークを認めて欲しいと思うんです。従業員の労働環境をガチガチに縛らず、個人や家庭の時々の事情にあわせた勤務形態で仕事ができる環境を作ることが求められるようになってきたのではないでしょうか?
どのようなワークスタイルを採用するかについては、各社ごとの経営スタイルや事業内容によると思うので、一概には言えませんが、ぜひ今後も「働く場所の自由度」を残しておいてほしいなと思っています。アフターコロナに移行したからといって、全面的にテレワークを廃するのはもったいないです。この3年間の学びを自ら放り捨てるようなものです。
「コロナ対策」を理由に含めないテレワークのメリットとは?
福田:そうですね、その点を考えるにはやはりまずこの3年間を振り返る必要があると思います。
コロナ禍での3年間、企業側も従業員側もテレワークの良い面、悪い面を肌で感じることができたはずです。「感染症対策」以外の良い面としては、やはり「仕事と暮らしの両立」を実現しやすいことです。子育てや介護、趣味や副業との両立を支援できるよう、アフターコロナでも積極的にテレワークを継続する企業もありますね。これは「従業員満足度を向上させ、優れた人材の採用を実現する」ことを志向するもので、素晴らしい変化だと思っています。
一方でこの3年間の反動として「オフィス回帰すべきだ」という声が強まりつつあるのも、肌で感じます。感染症対策のためとは言え、やはり急場しのぎ的に即時にテレワークを導入してもうまくいかなかった企業も多かったのだと思います。
―― 「急場しのぎ」で何となくテレワークを始めた会社ほど、「テレワークは成果がやっぱり出ない」と判断して出社回帰している印象はあります。
福田:「オフィスに出社して顔を突き合わせて議論できる」や「同僚と会って信頼関係を築けるし寂しくない」ことがやはり出社のメリットで、たしかにスピーディーな事業運営が実現できる面もあるでしょう。一方でそれが変化の激しい市場の中で、ロバスト(頑強)な事業環境かと言えば、必ずしもそうでは無いと考えています。
会社員時代の福田さん(写真一番左)
また「出社」を前提としている時点で、そのオフィスに出勤できる人材しか採用できない訳です。採用の面で不利になりやすいですし、ハイクラス人材ほど「出社前提の企業」以外の転職の選択肢は多いので、その会社を選ぶ理由が無いですよね。
「出社もできるし、テレワークもできる」という環境が一番、本来的には頑強な体制です。だからこそ、出社回帰とテレワーク継続はどちらか一方を選ぶのではなく柔軟に併用すべきです。
テレワークはあくまで「選択肢」だと思うので、それを年間の所定労働時間全体のどれくらいの割合と想定するかは、従業員本人の希望や、部署ごとや時期ごとの状況次第だと思います。多くの業務であれば、「全員」が出社して集まるのは週1~2日でも大丈夫で、それ以外は在宅勤務や自宅近隣のサテライトオフィスでのテレワークで十分なのではないでしょうか?
ワーケーションの価値再考:ワーケーションは「サボり」なのか?
福田:まず前提として、会社員にとってはテレワークもワーケーションも「ワーク」が中心として議論すべきものなので、サボっている時点で、勤務制度としては論外だと思います。一方で、ずっと在宅勤務だけでは、他者との交流の不足による孤独感や、運動不足による心身の不調などを招いてしまうリスクが高まってしまいます。そこでワークをしつつ、普段とは異なる非日常な交流や刺激を受けることで、気持ちが晴れやかになったり、セレンディピティ的な新しい発見や気付きを得やすいのが、そうした働き方の分かりやすいメリットだと思います。
ただ確かに会社員が個人で実践する「狭義のワーケーション」、つまり「プライベートな旅行先で通常業務を持ち出してテレワークをする」という勤務形態は、まだまだハードルが高いと思いますし、むしろ無理して広げる必要も無いと思っています。
現在、「どんな人たちがワーケーションを実践しているのか?」については、私が2022年にまとめた「ワーケーションペルソナ」を参考にして頂けると、実状をご理解頂けるかと思います。
先進的なワーケーター像を6つのタイプにまとめた「ワーケーションペルソナ」(提供:神奈川ワーケーションNavi)
だからこそまずは自宅の近くで「ちょっとした非日常」をワークに取り込んでいく。具体的には「マイクロワーケーション(ご近所ワーケーション)」を始めてみるのは、企業側にも従業員側にもおすすめです。例えばオフィスの近くの公園でチームの定例MTGをやってみたり、自宅近くの温浴施設でテレワークしてみるとか。自宅のベランダにチェアを出して、風を感じながらワークしてみるだけでも、自分の中で変化を感じられるのでオススメです。
熱海の保養所での開発合宿の様子(2007年)
「3rdプレイス」の例としては、「カフェ」「コワーキングスペース」「出張先」「帰省先」「旅先」「海外」など、自宅からの距離もさまざまですが、その人にとって「非日常」の場所でテレワークをすれば、それはすべて「ワーケーション」なのです。
ワーケーションを企業が取り入れるメリットについて
福田:ワーケーションの価値が企業側に認められづらい最大の理由は、「ワーケーションという呼び名」が原因かなと思っています。「ワーク」と「バケーション」の造語ですが、私が参加している「日本ワーケーション協会」では、「ワーケーションの7つのタイプ」として、「ワーク+イノベーション」や「ワーク+コミュニケーション」などと定義を拡張することで、企業を含む多くの方々が導入・実践しやすいワーケーションの普及に努めていますが、やはり分かりづらい面もあるとは思います。
福田さんが推奨する「チームビルディング型ワーケーション」
「チームの結束を高めるための研修を目的とした合宿」であれば、どのような部署でも実践できる汎用的なワーケーションの取り組みです。私が会社員だった時代には、「社員旅行」として、会社のメンバーと泊りがけで非日常の場所に行く機会もありました。また中期事業戦略を考えるための「オフサイト会議」や、会社の保養所でエンジニアたちとの「開発合宿」などもやっていました。しかし時代も変わり、こうした取り組みは減少傾向にありますが、在宅でのテレワークが広がる中、改めて社員間の繋がりや信頼関係の構築が重要になっています。こうしたチーム単位でのワーケーションの価値は大きいです。
具体的なイメージは、私がプロデュースした横浜でのチームビルディング・ワーケーションの動画をご覧頂くと、分かりやすいかと思います。
横浜で「チームビルディング・ワーケーション」プロモーション動画(横浜観光コンベンション・ビューロー製作) - YouTube
【YOKOHAMA Team-Building Workation】横浜観光コンベンション・ビューローでは、リモートワークが続く、企業の皆さまを対象に『チームビルディング型ワーケーション』として、非日常的な場所での、オフサイト会議や研修などに最適なプラン作りをサポートいたします。<横浜観光コンベンション・ビューロ...
―― 「チーム単位のワーケーション」は出社回帰の傾向も強まっているからこそ価値があるというのは非常に面白い観点ですね!
福田:前半の話に少し戻りますが、テレワークを全面的に撤廃して出社回帰する企業は「テレワークでの成功体験がこの3年間で得られなかった」のだと思います。だからこそこうしたワーケーションは導入の価値があり、チームとして「オフィスではない第3の場所で仕事や研修をするからこそ、通常とは異なる成果が出せる」という成功体験をまとめて得られるでしょう。また3年間離れて仕事をしていたメンバーと改めて結束感を強める効果もあります。
まずは近郊の場所で、宿泊無しの日帰りでも参加可能な形で「ワーケーションx研修」の練習をしてみた上で、「これならもう少しコストと時間をかけてでも、社内で広く実施してみたい」となったら、電車や飛行機などで長距離の移動を伴う形にステップアップしてみるのも良いかと思います。
アフターコロナにおけるワーケーションやテレワークの意義と成功のポイント
福田:そうですね。だからこそ企業にとって「テレワーク廃止」というのは勿体ない議論で、働き方の選択肢の1つとして定着していくことを目指すべきものだと思います。「今週は週2日は出社、週3日はテレワーク」など使い分けていけば理想的です。
私自身も会社員時代は、横浜から都内まで毎日往復2時間弱を使っていましたが、企業側には「通勤時間分の給与を支払ってでも毎日オフィスへの出勤を求めたいか?」という観点で考えていただきたいです。
またワーケーションについては、たとえば「企業相乗り型のワーケーション研修プログラム」に参加されるというのもオススメです。複数の企業からの参加者とともに、地域側の受け入れメンバーが企画した研修に参加するタイプのワーケーション企画で、私も長崎県や北海道などで多くのプログラムに参加して来ました。
企業としては「越境学習効果」による従業員の成長のための投資と捉えることができますし、行政や様々な企業との繋がりができるのはセレンディピティ的な楽しみもありますし、地域の課題と向き合うことから新事業開発を構想する観点でも魅力的ですよ。
一度参加してみると「なるほど、地域のコワーキングスペースのコミュマネさんと話すと、つながりが広がるな」とか、「自社の他部署の業務内容も理解していないと、会社について聞かれても回答できないな」など、それまでとは違った「気づき」を得られると思います。そうした一つ一つの気付きを自発的に社員が得られる機会になるので、マネージャーも社員の成長を実感できるはずです。
テレワークに「失敗した企業」にこそ求められる「新しい働き方との向き合い方」
福田:企業の経営層としては「テレワーク導入に失敗した」とは言われたくないし、認めたくないかと思いますが、それは「不都合な真実」です。
すでにプログラマーや企画系の仕事などの優秀な人材は、「働く場所の自由度」の低い会社からは流出しており、短期的な競争優位性の危機が生じています。また学生時代にリモートで学ぶ経験をした学生たちは、旧来の出社前提の会社は選ばない傾向が顕著になっているため、中長期的な事業成長は元より、自然災害などの発生時には企業の存続さえも危うくなるリスクがあるという意味で、テレワークの導入と柔軟な運用は、もはや必須の経営課題であると私は思います。
一方で「ワーケーション」については、その企業ごとに社風や従業員の声も考慮しながら、時間をかけて導入を検討してゆけばよいかと思います。そのためには、まずは経営者やマネジメント層の方が、プログラムに参加する形などで自らワーケーションを体験してみて、自身の中での変化を体感していただくことが重要ではないかと感じています。
―― 福田さんは以前から会社員の方に向け、ワーケーションを実践するための具体的な情報を「神奈川ワーケーションNavi」で発信されていらっしゃいますよね。今回のインタビューや福田さんの情報発信がきっかけになり、ワーケーションを実践するビジネスパーソンが増えることを「在宅百貨」としても期待しています。今回はありがとうございました。
福田さんが編集長を務める「神奈川ワーケーションNavi」の記事。会社員がワーケーションを実践するまでに必要な心掛けや事前の自己投資が分かりやすくまとまっています
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